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2015-02-12

検証現場『TBSアナウンス部』 【後編】

Diamond.jp X 月刊 人才教育 [中原淳の学びは現場にあり!]
第2回】 2015年2月12日   中原 淳 [東京大学大学総合教育研究センター准教授]
前篇
女子アナの話はなぜ伝わるのか 加藤シルビアが鍛えた“耳”の力と予想力
⇒検証現場『TBSアナウンス部』 【後編】
構成/井上佐保子 写真/真嶋和隆 ※2014年5月27日取材
「番組のコーナーを任されたら、そのコーナーに『アナウンサー』は自分しかおらず、“お手本” がありません。『はなまるマーケット』の時は、VTRに合わせてのナレーションも、プロフィール読みも、話題の商品の紹介も、全て台本通り、ガチガチな状態でした!」と新人時代を振り返る加藤さん

テレビやラジオで活躍するアナウンサー。新人育成に欠かせない道具が“ICレコーダ”です。発音の基礎について一通り学んだら、ICレコーダを使って耳を養う訓練をします。ひたすら原稿を読んでは、録音した自分の声を聞き、自ら修正する――この作業を繰り返し、自分の声を客観的に聴くことができるようになれば、一人前に一歩近づいたしるし。加藤シルビアさんも、そうやって育ってきたひとりです。さて、加藤さんが経験した次の「学び」とは。
  • 本番中、叱られて知った「伝え方のニュアンス」
加藤さんが最初についた番組は「はなまるマーケット」という生活情報番組でした。担当はオープニングの短いコーナーや、はなまるカフェというゲストをお招きするコーナーなどでのアシスタント的な仕事。
 しかし、「当時はガチガチに緊張していて、『台本通りの言葉を台本通りのタイミングで言う』ということしか頭になくて……。今振り返ると全く合格点までたどりついていませんでした」
 そのことに気づいたのは、2年後、朝5時半からの生活情報番組「みのもんたの朝ズバッ!」のキャスターとして抜擢された後でした。みのさんとの丁々発止の掛け合いは全て台本なしの即興。
 「みのさんの率直な疑問に答えるべく、毎日、質問を予想して調べて覚えて返して……」ということを繰り返すうち、うまく答えを返したことで番組が盛り上がる瞬間があり、「自分が新たに繰り出した球がプラスに働くことがある」、と気づき仕事が楽しくなったといいます。
 「『はなまる』時代の私は、単に台本通り自分の役割をこなすことが満点だと思っていたのですが、それでは80点。タイミングよくコメントしたり、VTRが出ない、物が用意できないといったスタジオがピンチの場面を上手くフォローしたりと、もっとアナウンサーとして番組をよくすることができたはずなんです。でも当時は80点の上があるということに気づきませんでした」

[P2] 「朝ズバッ!」では、MCのみのさんから、さまざまなアドバイスを受けたといいます。
 「東日本大震災の後、確か放射線の低線量被ばくの安全基準に関する国の対応についてのニュースだったかと思うのですが、『いち早く対応してほしい』といったコメントをした私に対して『いち早く、という言葉で片づけるには事が重大すぎるのではないか』といった趣旨で、本番中に怒られてしまったことがありました」
 その瞬間はパニックになったそうですが、「間違ったことを伝えたわけではないけれど、『伝え方』に軽さはなかったのだろうか?と、いうことですよね。入社3、4年目で、『伝え方』の微妙なニュアンスについて指摘を受けたというのは本当にありがたかったです」
  • 現場ごとに異なる役割とは
加藤さんは、この頃、仕事をしながら一橋大学の国際・公共政策大学院に通い、専門職修士をとっています。大学院に通い始めた動機は「朝の番組だったので、昼間の時間を有効活用したい」というものでしたが、報道志望だったので、「将来につながれば」という思いもありました。
 「『朝ズバッ!』の時は、出社が朝の1時半。番組の後、朝10 時からの講義に出るというのは体力的にとてもきつかったです」
 そのかいあってか、2013年4月からは報道番組の「Nスタ」のキャスターを務めています。「Nスタ」では、求められる役割が今までと大きく違うことを感じているそうです。
 「『はなまる』では、まずは台本通りきちんと話す、ということを教えていただき、『朝ズバッ!』では、臨機応変に対応すること、伝え方、受け取り方、コミュニケーションのとり方全般を教えていただきました。今度は『Nスタ』で、ニュース、情報をつくる部分を見せていただいています。番組を変わるたびに、学ぶことがあり、ありがたいな、と思います」

[P3] ニュースの現場に身を置く今、情報をつくり出す部分にも興味が出てきたと話す加藤さん。「今は報道番組のアナウンサーとして、自分は何ができるのか……と模索している段階です。オンエアは毎日楽しいのですが、まだ80点。この先きっと、今まだ見えていない残りの20点が見えてくるのではないかと思います」
 インタビュー終了後は、Nスタの打ち合わせに同席させていただきました。そこには、過去のニュース取材経験について語るメインキャスターの堀尾正明さんの話に、熱心に耳を傾ける加藤さんの姿がありました。
 「新人アナウンサー」卒業後、アナウンサーたちは研修で養った「耳」を頼りに、現場の仕事を通して台本にない自分なりの「残りの20点」を探っていくことになります。加藤さんは、今後、報道の現場で、どんな「残りの20点」を見つけるのでしょうか。報道のアナウンサーとして、さらなる活躍を期待したいです。
  • Reflection 中原淳の視点 「 自分の仕事に気づくセンサー」
仕事に必要な知識・スキルは、結局、業務を通して――すなわちコンテキスト(文脈)の中――で学ばれる必要があります。そして、その学びに終わりはありません。熟達した、到達したと思えば、「残りの20点」が見えてくる。「業務の中での学び」とは、結局、「終わりのない旅」に出かけることでもあります。
 それでは、教室で行われる研修やオフィシャルな教育機会には何ができるでしょうか。それは、「自分の仕事のあり方を自分でモニタリングして、自分で学び直すこと(自己調整学習)」の癖をつくること、そして、現場の「出来事」や「現象」にまみれた日常の自分を相対化し、概念的知識をつくり、整理することです。
 駆け出したばかりのアナウンサー笹川友里さんが挑戦なさっていたことは前者であり、加藤シルビアさんが試みていたことは、後者に近いものであると思います。
 本取材で得られた「耳を養う」というメタファや、「台本にないなにかを探る」というメタファは、決してアナウンサーだけに当てはまることではありません。一般のビジネスパーソンにおいても、「自分の仕事に気づくセンサー」はぜひ持ち合わせていたいものです。
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